TOP 投資/ソーシャルレンディング コラム不動産特定共同事業法とは?平成29年改正のポイントも解説

日本は超低金利が長く続き、自分で工夫をして運用をしなければ、お金が全く増えない時代になっています。そんな中、小口の不動産投資の手法として不動産特定共同事業が注目を集めています。この記事では不動産特定共同事業のルールを制定する不動産特定共同事業法と平成29年の改正についてくわしく解説します。

不動産特定共同事業法とは

不動産と法律のイメージ画像

不動産特定共同事業法とは不動産を投資家から募った小口の資金を元に不動産を運営する「不動産特定共同事業」のルールを定める為の法律で、一般的に「不特法」と呼ばれています。不動産投資は安定的な家賃収入が入る魅力的な投資対象ではあるものの高額であり、何千万円〜億単位の投資となるため、一般の人にはなかなか手が出しづらいもの。

しかし、多くの人が少しずつお金を出し合って、不動産を購入し、利益もみんなで分配するという運営方法もあります。このような不動産の運営を「不動産特定共同事業」と言います。例えば、匿名組合契約を結び、投資家が一人100万円を出資し、100人の投資家を集めたとします。

集まった1億円の資金で不動産を購入し、不動産から得た賃料収入を投資家100人に分配するといった仕組み。不動産特定共同事業であれば小口の出資でも他の投資家と共同で出資を行うことで少額でも不動産投資の恩恵を受けることができます。

そのため、現物不動産を購入することができない投資家も不動産投資に参入することが可能となり、投資家にもメリットとなり、不動産事業者にも運営事業の収入を得る事が可能です。しかし、不動産特定共同事業は不動産会社が行うため、不動産会社の経営破綻や不適切な運営が行われると投資家に大きな被害が及ぶ可能性があります。

そこで投資家を保護するために制定されたのが「不特法」。不特法により、不動産特定共同事業を行う業者は国土交通大臣または都道府県の許可を得なければ運営できない決まりとなり、脆弱な経営基盤で投資家に迷惑をかけることがないように厳しい基準が設けられています。不特法における不動産特定共同事業を行う業者として許可を得るためにはまず財務的な基盤がしっかりしていなければなりません。

十分な財力が無ければ、経営状況が悪化した時にすぐに倒産してしまう可能性があるため、投資家に不利益となります。そのため、不動産特定共同事業を行う事業者は財務基盤の要件を満たす必要があります。不動産特定共同事業の事業者は人的資源も確保しておく必要があります。

不動産の運営には不動産の知識や財務の知識を持った専門家が必要です。そのような人材を確保できなければ、適切に不動産を運営することができないため、人的資源を確保できない事業者は不動産特定共同事業を行う事業者として登録を受けることができません。

このように不特法では不動産特定共同事業を円滑に行うことが目的とされており、その目的の重要な要素の一つが「投資家の保護」であることを覚えておくと良いでしょう。

平成25年の不特法改正

不特法改正のイメージ画像

直近の不特法改正は平成29年の改正です。その前の改正は平成25年。平成25年の改正は平成29年の改正につながる重要な改正ですので、頭に入れておく必要があります。平成25年の改正では特例事業の制度が導入された点が最大のポイントです。特例事業では一定の要件を満たすことで、不特法の許可を得なくても事業を行える制度です。

特例事業の最も重要な要件は特定の不動産の運営を専ら行うと会社である必要があるという点です。会社の事業を特定の不動産に限定することで、他業務で失敗したことにより、倒産に追い込まれ投資家に損失を与える可能性がなくなります。

不動産の運営に会社業務を限定している会社は「特別目的会社(SPC)」と言われ、この「倒産隔離」の機能は投資家を守るために重要な条件となります。他にも、不動産取引を不動産特定共同事業者に委託すること、投資家は銀行や信託会社などのプロ投資家に限定することなどの条件があります。

条件を満たせば「特例事業」として、不動産特定事業の許可ではなく、一定の事項を主務大臣に届けるという簡易な手続きで事業を行うことができます。特別目的会社(SPC)を用いた特例事業が活発に活用されることで、不動産特定共同事業が活発になることが期待されましたが、実際にはこのスキームはあまり普及しませんでした。

その理由は特定目的会社を活用したスキームは他のスキームで代替可能であり、税制面でも他のスキームを活用した方がメリットも大きい場合も多かったからです。特別目的会社を用いたスキームと代替可能なスキームの一つが「信託」を活用したスキームです。信託とは財産を持っている「委託者」が第三者である「受託者」に財産を預け、運営を依頼。

財産から得た収益を「受益者」に支払うスキーム(受益者と委託者は同一であるケースもあります)。信託を用いたスキームでは信託された財産は受託者の財産とは分別保管されますので特別目的会社(SPC)と同じように「倒産隔離」の機能が期待できます。

また、特別目的会社(SPC)とあわせて覚えておきたいのが、特定目的会社(TMK)と呼ばれるスキーム。特定目的会社は不動産等の資産や負債を流動化し、証券化することのみを目的とする会社で、運営する不動産等から得た収益を投資家に還元する仕組みとなっています。

特別目的会社は節税等、資産の流動化以外の目的でも設立される会社です。特別目的会社(SPC)の方が資産の流動化のみを目的として設立される特定目的会社(TMK)より広い範囲の会社を示しており、特定目的会社(TMK)は特別目的会社(SPC)の一種であると覚えておくと良いでしょう。

平成29年の不特法改正

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平成25年の改正を踏まえ、新たな運営手法として注目されるクラウドファンディングなどにも対応した法改正が行われました。それでは平成29年の改正のポイントを見ていきましょう。

契約成立前書面のインターネット交付が可能に

平成29年の不特法改正の最大のポイントは契約成立前書面をインターネット上で交付することが可能となった点です。契約成立前書面をインターネットで交付可となったことで、不動産特定共同事業を「クラウドファンディング」で資金調達が可能になりました。

クラウドファンディングはインターネットを活用して多くの人から資金を集めて、運用する手法です。クラウドファンディングのクラウドは群衆を意味し、ファンディングは「資金調達」を意味する言葉。

インターネットの普及により従来の伝統的な資金調達方法である、銀行融資ではなく、インターネットで多くの人から資金調達をするクラウドファンディングを活用する人が増えています。

クラウドファンディンは不動産だけでなく新規事業や慈善事業にも活用されており、新しい資金調達の方法として注目されています。改正前の不特法では契約成立前の書面をインターネットで交付することを禁じられており、事実上クラウドファンディンの仕組みを使うことができませんでした。

しかし、平成29年の改正不特法では書面交付の要件が緩和され、インターネットでの公布が可能となったことからクラウドファンディングの活用が可能となったのです。

特例事業による事業参加者の拡大

改正前の不特法では特例事業における投資家は銀行や信託会社などに限定されていました。この要件は改正不特法では一部緩和され、「宅地の造成又は建物の建築に関する工事その他主務省令で定める工事であってその費用の額が主務省令で定める金額を超えないもの」については一般投資家でも投資をすることが可能となりました。

主務命令で定める金額とは不動産評価額の1割程度で、主務省令で定める工事とは軽微な増改築やリスクの低い修繕などです。一定の条件を満たすことで一般投資家も参加できるようになるため、改正前の制度よりも使いやすい制度となっています。

特例投資家向け事業の約款規制の廃止

不動産特定共同事業者(特例事業者含む)は投資家との間で不動産特定共同事業の契約を結ぶ際に主務大臣の認可を受けた約款に基づいたものである必要があります。平成29年の改正でこの条件が一部緩和され、投資家が特例投資家に限定されており、この権利・義務を他の特例投資家に譲渡することに限定することで、約款規定が免除されます。

約款を作成しなくても良いと言うことは不動産特定共同事業を行う事業者にとって手間とコストを削減することにつながるため事業者にとって有利な法改正と言えます。

適格特例投資家限定事業の新設

適格特例投資家とは、「不動産に対する投資に係る専門的知識及び経験を特に有すると認められる者として主務省令で定める者」と定められており、適格特例投資家に限定して不動産特定共同事業を行う事業者は不特法の許可が不用となり、届出のみで足りることとなりました。

適格特例投資家はいわゆる不動産のプロに限定されているため、プロ相手の事業に関しては一部緩和したということになります。この改正により、条件の厳しい不動産特定共同事業を行えることとなり、市場全体の活発化が期待されます。

小規模不動産特定共同事業の新設

小規模不動産特定共同事業とは各投資家の出資及び出資の総額がいずれも政令で定める金額を超えない事業(特例事業含む)です。小規模不動産特定共同事業の要件である金額は各投資家の出資額が100万円、出資の総額は1億円です。

小規模不動産特定共同事業であれば、不動産特定共同事業の許可を受けずに登録をすることができます。この改正により小規模であれば、不動産特定共同事業に参入しやすくなっています。ただし、小規模不動産特定共同事業の登録を受けるためには宅建業の許可を受けていることが条件となります。

また、不動産特定共同事業の許可に必要な資本金等の財務的な条件、運営を行う人的資源の確保は行うことができなければ小規模不動産特定共同事業の登録を受けることができないため、誰でも簡単に参入できるというわけではありません。

小規模不動産特定共同事業の登録は有効期間が5年間となっており、期限到来後も事業を継続する場合は更新手続きが必要となります。

まとめ

法務省のイメージ画像

不動産特定共同事業法「不特法」の平成29年に行われた改正について解説しました。不動産特定共同事業法は不動産特定共同事業を円滑・安全に運営するための法律ですが、基本的に投資家の保護に主眼がおかれています。

不動産投資における、運営事業者と一般の投資家には情報面や経験面で大きな格差があります。そのため、一般投資家を保護するために事業者には登録や運営のために様々な条件を設けることで一般投資家の利益を侵害しないようにしているのです。

平成29年の改正では時代の流れに沿って不都合な状況となっている条件が一部緩和されています。特に注目するべき点は契約成立前書面がインターネットでの交付も可能となった点です。この改正によりクラウドファンディングで不動産特定共同事業の資金調達が可能となり、より多くの人からスピーディに資金を集めることができるようになりました。

その他の改正についても条件緩和が主ですが、小規模の事業や、プロである特定投資家に絞って条件の緩和がされています。そのため、一般投資家の利益を大きく逸失するようなことにはならないでしょう。

不動産投資は個人投資家の資産運用における有力な選択肢としてなりますので、今後も時代の流れに沿った改正が順次行われていくでしょう。